小豆洗いのお使いは

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目の前にいる母はブランド物だが品のいいスーツを着こなし、髪を綺麗に染めてパーマをかけている。 18歳で私を生んだこともあり、まだまだ若くて美しいひとだと思う。 お祖母ちゃんを頼ってこの家を飛び出した頃は、もっと雰囲気がとんがっていた気がするのだが──なんだか今はずいぶん落ち着いたような。 「お母さん、なんか変わった……?」 「年をとったのよ。いろんなこともあったしね」 もてあそぶ指先にはきちんとネイルカラーが施されている。ヌーディーなピンクはつややかな光を反射して、母の細い指を飾っていた。 「ねぇ葉月。その『ふじゅりもうしで』?はやめないの?お父さんの意見はともかく、相手の方は母さんから見てもいい人だと思うわよ」 この家に連れ戻されて最初に見たのは、一人の青年の写真だった。 すらっと背が高く、清潔感のある黒髪とスーツ姿で、やわらかく微笑んだ目はやさしそうだった。国立大学院で経済学を学んでいる有名企業の令息だとは父の談だ。 父はこの青年と私を結婚させようと暗躍した挙げ句、役所であっさりはねのけられてきたわけだ。 高身長、高学歴、高収入(収入というより資産というべきか)という、行ったことはないけど合コンなら真っ先に狙われるタイプだと思う。 かくいう私だって、他人のお見合いだったらきっと推薦しただろう。 でも────ちがう。 私が求めているのは所謂「3高」の男性ではなく、たったひとりのひとなのだ。
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