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「お父さんやお母さんが選ぶ価値観を否定するつもりはないよ。家柄も立派だし、見た目も爽やかだし、素敵そうだなと思ったもの。でもね」
前置きをした上で、強めの逆説を口にする。
「どんなに素敵なひとでも、私は【契約】を結ぼうとは思わない。それは誰であっても同じだよ。今の私にとって、【契約】したいと思えるひとは──たったひとりだけ」
きっぱりと言い切ったその言葉に、母が目を丸くする。
母の珍しい表情に、そして心に浮かぶ面影に、私は思わず笑みをこぼした。
コノハの契約ではない、人の世の【契約】。それを結んでほしいと願う相手は、紺だけだ。
人間ではないひとだけど。
私よりずっと永い時間を生きるひとだけど。
──その時の流れの違いゆえに、いつかすれ違ってしまうかもしれないけれど。
「私はもうすぐ20歳で、これからもたくさんの出会いがあると思う。今の気持ちが永遠だなんて、そんな綺麗ごとは言わないよ」
永遠なんてありはしない。それは過去の慟哭のなかで悟った、哀しいほどの現実だった。
それでも──
「それでも、私はあのひとと一緒に生きていたいと願ってる。今、心から願ってるよ。そんな状態だから、他のひとなんて眼中に入らないの」
真っ直ぐに想うあのひととずっと一緒にいたい──そう願う気持ちを持ち続けていたいと思う。
その願いが積み重なって、永遠に近い時間になったなら……それが一番うれしいことだ。
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