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「だから…後宮入りのことよ、勿論。いくら演技が上手くても、ふとしたことでばれてしまう可能性もあるわ。今からでも遅くない、辞退すれば…」
言い淀みながらも、正体のばれる危険性について説こうとするマルグリット。
しかし、それは
「うらやましいんですか?」
「え?」
下女の、思いもよらないひとことで止められた。
驚いたマルグリットがぱっと顔を上げると、エイミィが口を三日月の形に歪めていた。
「もしかして、本当はこんなはずじゃなかった、とか思っているんですか?」
「…なにが?」
「白々しいですね。惚けても無駄ですよ?」
吐き捨てるような、冷たい声が部屋に響く。
先程浮かれていたのが嘘だったかのように、蔑むような視線を向けてくる。
そうだ、エイミィはこういう二面性がある子だった、とマルグリットは今更ながら思い出した。
「本当は陛下の目に止まるために下女になって、出会う回数を増やして、最後は寵愛を受けて…で、実は側室の一人だったんです、ってバラす予定だったとか。それで正妃になるつもりだったのでは?」
「………!」
「ふふ、中々いい作戦でしたね。…でも、残念。陛下は『マルグリット様』じゃなく、『エイミィ』を御所望なんです。この、私を。」
また、彼女の口がぐにゃりと歪む。
右腕を胸にあて、自信満々にそう言い切ったエイミィを前に、マルグリットは何も言えなかった。
ただ、あまりにもショックで。
喉がからからに乾いてしまったように、張り付いて声を発することが出来ない。
―何を言っているの、と憤ることも。
―違う、そんなこと考えてもいなかった、と否定することすら。
マルグリットはできなかった。
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