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「それに外見も声も全く一緒なら、貴女よりもずっと可愛くなる努力をしてきて、貴女よりも貴族らしい私の方が選ばれますよー、きっと。
そうして陛下のご寵愛を受けて…はは、マルグリット様よりも位が高くなっちゃうかもしれませんね。」
そう言ってからからと笑うと、エイミィは『私、予定通り後宮に入りますから。』と宣言をした。
それに対し、待って、とかろうじて反応を返したマルグリットだったが、
「私は、わざわざ貴族のお嬢様の気まぐれに付き合ってあげたんですよ?これくらいのご褒美があってもいいじゃありませんか。」
下女の刺すような台詞に完全に動きが止まる。
それを見て、下女は殊更愉快そうに笑った。
―休憩時間が終わるので、ひとまずここで失礼しますね。また夜に来ますから。
下女は最後にそう言って、侯爵令嬢の部屋を後にした。
バタン、と扉が閉まり、少女はいなくなった。
途端、マルグリットは力なくその場にへたり込んだ。
ふかふかの絨毯の上とはいえ、椅子でも寝台でもない地べたに座るなど、『令嬢』にあるまじき行為だ。
茶器を片付けてきたルビアがそれを見つけた時、すぐに目くじらを立てた。
「ちょっと、お嬢様!何をしてらっしゃるんですか!?ほら、立って下さい!」
「………。」
そう怒鳴られ、マルグリットは侍女に手を引かれながら立つ。
しかし、彼女の顔に生気がない。目はうつろだし、心なしか青ざめて見える。
ルビアはマルグリットの様子がおかしいことに気付き、どうしたのですか、と問いながら顔を覗きこんだ。
マルグリットはその緑の瞳に侍女を移し、ぽつりと呟いた。
「…貴族のお嬢様の、気まぐれだって。」
「え?」
「『なりかわり』のこと、そう言われたの。…ルビアもそう思う?」
「え、ええ。…まあ。」
それがどうしたのですか、とルビアは不思議そうに答える。
マルグリットはそれを聞いて、ふっと笑った。
「………そうよね。」
そう言ったきり口を閉ざしたマルグリットは、そのまま歩いて寝室へと消えた。
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