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―ついにエイミィの後宮入りを止めることはできなかった。
本人が強く希望し、マルグリットの方も効果的な説得方法を見出すことができなかったからだ。
何を言っても『妬みは見苦しい』だの『今更寵愛が惜しくなったのか』などと詰られ、全く話を聞いてくれなかった。
もし、陛下に『エイミィ』の正体が知られたら、どのようになるか分からないのと言うのに――
そんな、最悪の事態のことを考えると、とても胸が痛い。
エイミィはマルグリットの計画に協力してくれた下女だ。
危害を加えたくないし、守ってあげたいと思う。
彼女ではなく全てはマルグリットが悪いのだから。
そのために、もういっそ、『なりかわり』を明かしてしまえばいい、と思いもした。
バレる前に自白してしまった方が罪はいくらか軽くなるし、ただ下女の仕事をしてみたかっただけだ、と主張できる。
『なりかわり』の協力者、下女のエイミィについても何度も懇願すれば見逃してもらえるかもしれない。
だが問題は現在の状況だ。
毒殺未遂の件で怪しい行動をとったマルグリットは、最悪、疑いをかけられ処刑されるかもしれない。
そうしたら実家の家族はどう思うだろうか?
また、その後ウェリントン家は次々と他の貴族からの非難を受けるだろう。
愚かなことをした娘をもつ侯爵一家、と風評被害を受けるのは目に見えていた。
―どの道を選んでも、自分以外の人を傷つけることになる。八方塞がりの状態。
そんな中、マルグリットは結局何もできなかった。
自分の行動はいつも何らかの事件を引き起こす。
そう考えると怖くなり一歩も動けなくなってしまうのだ。
ただ、静かにエイミィが『なりかわり』中のマルグリットだと気付かれないことを願うばかりだった。
――私も、もう何もしない。もう大人しくしているから。
マルグリットは祈るように、両手を合わせた。
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