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数分後、急(せ)くように大股で歩いて回廊を抜けた先に、ようやくエイミィの部屋を見つけたヴィルフリート。
扉の前に立ち、数回ノックをして本人の在室を確認した後、ためらいなくドアノブに手をかけた。
―白を基調としたその部屋に入った途端、整えられたばかりの家具のにおいと生花の香りが彼の鼻腔をくすぐった。
そして、目に飛び込んできたのは中央に置かれたテーブルに手を置き、椅子に座っている一人の少女。
ヴィルフリートは一歩踏み出し、どこか祈るような気持ちでエイミィ、と問いかけた。
「――陛下。」
すると、それに答えるように少女は振り返り微笑んだ。
普段の質素な下女の制服とは似ても似つかぬ豪奢なドレスに袖を通し、髪を複雑な形に結っているものの、それは確かに彼の記憶の中の下女のエイミィに相違なかった。
王はその顔を見て、安堵の息をついた。
「…エイミィ。」
「はい、陛下。」
言いながら、ヴィルフリートは少女に駆け寄り自身の腕の中におさめた。
エイミィも顔を赤らめながらも嬉しそうに笑う。
温かな体温を感じながら、自分は今まで何を心配していたのか、と嘲笑した。
――ほら、彼女はちゃんとこの腕の中にいる。嫌な予感などただの気のせいだ。
王はくすっと笑みを漏らし、赤毛を撫でた。
「こんな遅くになってすまなかったな。何か不自由はないか?」
「いえ、何ひとつありませんわ。もう本当に夢のようで…」
「言ったであろう、私は本気だと。」
「ふふ、そうですね。」
そんなたわいもない会話をしながら、二人は顔を突き合わせ笑いあった。
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