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―元より、後宮に入ったばかりのエイミィを今夜どうこうするつもりはない。
ヴィルフリートは部屋付きの侍女に茶を淹れさせ、彼女との会話を楽しむことにした。
エイミィは、初めこそ慣れない服装や部屋の空気に戸惑っていたのか、
返答も当たり障りのない無難なものしか返さなかったが、次第に普段通りの饒舌ぶりを発揮しはじめた。
……『普段通り』?
だがそう心の内で自問した時、ヴィルフリートはふと違和感を覚えた。
この、目の前で笑っているエイミィは普段のエイミィとは何か違う、と。
まず初めに感じた違和感は彼女の態度だ。
後宮に入ったことで心境の変化があったのか、はたまたヴィルフリートに対する愛情が芽生えたのか分からないが、エイミィは彼に必要以上にくっつきたがった。
今も話しながらヴィルフリートの腕にしなだれかかっている。
愛しい女がこうして触れてくるのは嬉しい。…嬉しいはずだ。
だが、彼の記憶の中のエイミィがこういった行動をするとは到底思えなかった。
また、彼女の発言にも引っかかる点がある。
声色や口調は間違いなくヴィルフリートの知るエイミィのものであったが、所々見られる他人を見下し優越感に酔っているような物言いは、どうにも彼の癇に障った。
まるで――そう。
今までのエイミィとは別人のような……
そこでヴィルフリートはハッとした。
そして、なんてことを考えているんだ、と頭(かぶり)を振った。
しかし一度気付いた疑惑はすぐに晴れるものでなく、ざわざわと、嫌な胸騒ぎは大きくなるばかりだった。
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