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「…陛下?いかがなさいました?」
「!…い、いや…」
と、エイミィがこちらを覗きこんでいるのに気付き、慌てて居住まいを正すヴィルフリート。
その様子が可笑しかったのか、エイミィはくすりと笑った。
その表情を見て、この娘はやはり自分の知る下女に間違いないだろう、と思った。
どこからどう見てもこの『エイミィ』は、自分が会ったいつも仕事に一生懸命な『下女エイミィ』に違いなかったし、これほど彼女に似ている人物などいるはずがない。
ヴィルフリートはふう、と息を吐きだした。
「…すまない。少し、政務の疲れが出ているようだ。」
「まあ、それはいけませんわ!早くお休みになってください。」
「ああ、そうだな。」
慌てて立ち上がり侍女に指示を出すエイミィを見守るヴィルフリート。
すると、ふいに彼女のほっそりとした指先が目に入った。
昨夜も握った、白くて、細い手。
ヴィルフリートは反射的にその手を取り―触った瞬間、どくりと心臓が音を立てた。
滑らかでつややかなそれは傷一つなく、丁寧に手入れされていた。
「え?陛下?ど、どうされたのですか?」
「……この手は、どうした?」
「えっ?手、ですか?…ああ、傷はお医者様に言って治療してもらったのです。洗濯でボロボロになったみっともない手など、陛下にはとても見せられませんから。」
――違う!
それを聞いた途端、ヴィルフリートはカッと目を見開いた。
そして無意識の内に掴んだ手を払っていた。
「きゃっ!?」
強い力で突き飛ばされ、バランスを崩し床に倒れるエイミィ。
そして信じられない、といった風な面持ちで王を見上げた。
「へ、陛下!?」
「――お前は、」
蒼い瞳を細め冷たい視線を向ける。
――違う、こいつは。
「お前は、私の知るエイミィではない。」
王はそう吐き捨てると身を翻し、そのまま乱暴に扉を開けて部屋を後にした。
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