別人の下女

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「では、あの者は本物の『エイミィ』と言う名の下女で、私の命で後宮に入ったということか…?」 「はい。本人もそう申しております。…ですが」 「…なんだ。」 「陛下、本当に彼女は貴方の知る『エイミィ』ではないのですか?」 「……。」 黙りこむ王に、ユインは疑惑の目を向けた。 何回目かの『エイミィ』の尋問には、ユインも同席した。 その際、彼女の喚き散らす声を聞き、その姿を目にしたが―彼にはどう見てもあの茶会で毒見をした下女にしか見えなかった。 『信じてください!!私が本物のエイミィなんですっ!』 尋問の度、彼女は何度もそう叫んだ。 その通りだと、彼は思う。 実際に彼女の両親に確認したところ本物だと判明したわけであるし。 今のところ、あの『エイミィ』を『エイミィ』ではないと主張しているのはヴィルフリートただ一人だけ。 ひょっとすると王の勘違いということはないか、と訝しんだ。 「私には茶会に参加した下女と全くの同一人物に見えます。声や姿容貌もまるで同じにしか―― 「違う。」 ―が、返ってきたのは、即答であった。 言い終える前に発言を否定されたユインは、目を丸くする。 「あれは、私の求めるエイミィではない。それだけは確かだ。」 「…何故、そうお思いに?」 そう答えを求めた側近に対し、再び椅子に腰を下ろしたヴィルフリートは、不意に自身の掌を裏返し眺め始めた。 やや陰りのある笑みを浮かべぼそりと呟く。 「…手が、な。」 「……は?手、ですか?」 何の事だか分からない、と首をひねるユイン。 だが、王は彼の訝しげな視線に気付いたのか『いや、なんでもない』とすぐに視線を戻した。 ―が、ヴィルフリートの、何やら含みがありそうな発言を見逃すユインではない。 瞳をきらめかせ、さらに質問を重ねた。 .
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