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「………。」
やたら時間の長く感じた午後を過ごし、自室に入ったヴィルフリートは無言で脱いだ外套を寝台に叩きつける。
減らない仕事、頭の固い大臣どもの機嫌伺い、
さらに、他ならぬ本日判明した事実が彼を悩ませる。
何もかもを無茶苦茶にしてやりたい、という凶暴な感情が心の中で渦を巻き、押さえきれない――
――全く、この糞が。
心の中で王らしからぬ悪態をつき、苛立つ気分のまま寝台に腰かけた。
「偽物…か。」
そして、そうぽつりと呟いた王はうつろな目で虚空を眺めた。
つい先程ユインと交わした会話を思い出す。
『――つまり、陛下が見たのは下女のエイミィになりすました偽物、ということになりますね。』
『………。』
『おかしいと思いましたよ。あの者は、ただの下女にしてはあまりに非凡でしたから。
正体は、おそらく王宮に潜入し何らかの情報を手に入れるように雇われた諜報員、と言ったところでしょうか。
ただ、花の件にしろ、茶会の件にしろ…何故私たちを助けるような真似をしたかは未だ分かりませんが…』
『…本物のエイミィと偽物が共謀している可能性は。』
『今のところ、何も…。自分が本物のエイミィだ、と言い張るばかりで。』
『両者が無関係かどうかはまだ分からない。尋問を続けろ。』
『御意に。』
『それと、王宮内にいる使用人をすべて調べろ。似た容姿の者はすべて私の元へ連れてこい。』
『―この王宮内に、まだいるのでしょうか。すでに姿をくらましているのでは…』
『可能性はすべて潰すべきだ。…とにかく、頼んだぞ。』
『…分かりました。あと、これは例の件の書類です。目を通しておいて下さい。』
『ああ。』
それを最後にユインは執務室を後にし、ヴィルフリートも仕事に戻ったのだった。
回想を止め、カーテンから覗く漆黒の闇に目を向けながらヴィルフリートは難しそうな表情を作った。
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