別人の下女

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――すでに姿をくらました 彼とて、その可能性を考えなかったわけではない。 偽物のエイミィが本当に他国かある種の機関に所属する間者であるならば、とっくに王宮を抜けだし情報を持ち帰っているだろう。 だが、相手はエイミィに『なりすます』ことが出来たのだから今度は別の姿で王宮内に留まっているかもしれない。 また、本物と断定したエイミィ本人が偽物と共謀していた可能性もあり得るし、 さらに偽物の『エイミィ』は普段下女として仕事をこなしているようであったから、仕事仲間に聞けば目撃証言は得られよう。 とにかく、彼女を結ぶ糸はまだ途切れてはいないはず。 今はそう願うばかりであった。 『では、陛下。貴方が私を捕まえられたら、貴方のものになりましょう。』 ――あれはこういう意味だったのか、偽物め。 捕まえられるはずがないと、私を嘲笑っていたのか。 ヴィルフリートはぎり、と唇をかみしめた。 今思えば、まるで別れの挨拶のようであったあの台詞。 それが今も頭を反響し、離れない。同時に、月を背に綺麗に微笑んだ『エイミィ』の顔が浮かび、どうしようもなく胸が締め付けられた。 このような甘くも苦しい痛みを彼は知らなかった。 思わずぎゅっと胸元を押さえる。 ―が、それも一瞬のこと。 すぐにその手を離し、顔を上げた彼はふっと口角をつりあげて笑った。 狩りの前の、獰猛な獣のような笑み。 ユインがいつも『ろくでもないことを考えている顔』と評している表情。 「…よかろう。ならば捕まえてみせようではないか。」 ――覚悟しろ、『エイミィ』め。 ヴィルフリートはその瞳に壮絶な色を浮かべて、そう言った。 .
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