1149人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
**********
「~♪」
―朝早く、柔らかな日が差し込むテラスを横切り、安い革靴を鳴らす女がひとり。
マルグリットは上機嫌で広い広い大理石の廊下を歩いていた。
身につけているのは白いブラウスに濃紺のスカート、その上にひざ丈までのエプロンを合わせた下女の制服だ。
長い黒髪はまとめて赤毛の鬘の中に入れている。
今の彼女は、『側室のマルグリット嬢』ではなく、『下女のエイミィ』。
そう。下女になりかわるため、マルグリットは早速下女の制服に身を包み、エイミィがいつも作業をしている仕事場へと向かう途中なのである。
――うまくいったわ。
高揚している気分はそのままに、マルグリットはにんまりと笑った。
時はさかのぼり昨夜、マルグリットの自室内。
侍女のルビアは主からこんこんと『下女なりかわり計画』の完璧さ、下調べの入念性を説明された。
そしてついにははあ、と息を吐き出す。
「…分かりました。そこまで言うなら、ルビアは止めません。」
「そう!ありがとう、ルビア。」
マルグリットはぱん、と手を叩き満面の笑みを浮かべる。
ようやく侍女から『下女』になる許可が出たのだ、数日間の苦労が報われた気がした。
「しかし、いくつか守ってほしいことがございます。…聞き入れてくださいますよね?」
「…はい。」
―が、悦に入っていると侍女から凍てつくような冷たい視線が送られ、
さらに半分脅すような強い口調の言葉に、ぞくりと背筋が粟立つ。
…まあ、最初からそう簡単にお許しが出るとは思っていなかった。
マルグリットは素直に頷いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!