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「あーもうっ!離れてくださいってば!」
「今日はまた懐かしい格好をしているな。『なりかわり』の時の、か。」
「無視ですかっ?」
「この赤毛の鬘、まだ持っていたのか。もう処分したとばかり思っていたが。」
「さらに無視ですかっ!?」
成立しているのかどうか微妙な言い争いを繰り広げつつ、
なんとかヴィルフリートの拘束から抜け出そうと奮闘しているマルグリットに、その可愛らしい抵抗を歯牙にもかけず愛でまくるヴィルフリート。
――どこからどう見ても、いちゃついてるだけの馬鹿夫婦です。
はいはい、新婚新婚。
と、傍目で見ていて砂糖でもざらざら吐きたくなったエイミィである。
そこはかとなく漂う甘~い空気に舌打ちをしそうになると、ふと傍らに佇むユーディーン・アラン・バートレット卿と目が合った。
王についてきたであろう彼は、やれやれと言った風に肩をすくめてみせる。
―彼もまた、毎日のように繰り返される茶番の被害者なのである。
同士よ、とエイミィは心の中で敬礼をした。
「―陛下、そういえばマルグリット様がなにかお願いがあるようですよ。」
「そうなのか?マルグリット。」
「!い、いえなんでもありませんわホホホ…。さ、エイミィ次はどこに行けばよかったかしら?」
「なんでも、厩舎に行きたいのだとか。仔馬が生まれたのでご覧になりたいそうです。」
「ちょっと、エイミィ!?」
そこは言わない感じの空気だったでしょうが!誤魔化されなさいよっ!
と、叫ぶマルグリットに対し、ヴィルフリートは『ほう、そうか』と頷いた。
「そなたは本当に変わっておるな。厩舎になど…どうして興味を持つのだか。」
「いや、だからそれは…」
「まあ、そうは言っても愛する妻の頼みだ。聞いてやらないこともないが…」
「け、けけ結構です!」
「ん?遠慮はいらないぞ?」
「いやだって!陛下はすぐ、変な交換条件つけるから!」
「変、とはどういう意味だ?」
さらりと銀髪をなびかせ、実に爽やかな笑顔を作るヴィルフリート。
神もかくや、と言われる程の美男子がこれほど近くで微笑んでいる。
世の女性が見れば失神ものであるが、彼の全く爽やかでない本性をすでに知っているマルグリットにとっては、恐怖の対象に他ならない。
王妃はひい、と声にならない声を漏らした。
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