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「王妃様…マルグリット様はどうされていましたか?」
「相変わらずです。陛下とベタベタのらぶらぶです。」
「…他には」
「また脱走しようとしていました。『私』の格好で。」
「まだ持ってましたか…。」
どこで調達してくるんでしょうか、制服なんて。
そう言いながら頭が痛い、と言った風に額を押さえるルビア。
マルグリットはいつもどこからともなく制服だのロープだのを調達してきて、脱走を試みるのである。
王妃ともあろう令嬢がそんなことでいいのか、と思うが危ない行動は全て陛下やユインが潰しているので心配はない。
むしろ好き勝手に泳がせ、最後に嬉々として捕まえる陛下コワイ、とエイミィは思う。
「まあ、クビになった私を拾って下さって専属の侍女にまでしてくれたマルグリット様には感謝してますけど…ホントにあの人、王妃になっても滅茶苦茶なままですよね。」
「そういう方なのです。…昔から。」
あれでいてマルグリットは、王妃教育は真面目に受けているし頭の回転も悪くないのである。
あとはあの異常な行動力をどうにかしてくれれば…とはルビアがいつも語る愚痴である。
エイミィもその辺は全面的に同意する。
破天荒で枠にはまらない、妙に庶民派な変わりものの侯爵令嬢、改め王妃マルグリット。
強引な振る舞いに振りまわされ、『なりかわり』というバカげた計画に協力させられたのは記憶に新しい。
あれはあれで腹立たしかったが、でも。
「まあ、こちらは退屈しませんけどね。」
―他人事として見ればなかなかに面白い。
そう言ってエイミィは悪戯っ子のように笑った。
ルビアもまた、そんなエイミィの様子にほっとしたように苦笑する。
「―エイミィも大分マルグリット様のお世話に慣れてきましたね。」
「まあ、それなりに。」
穏やかな会話をしながら侍女たちは、やや冷気を含んだ秋の空を見上げた。
ともあれ。
近頃はよく笑うようになったと噂の王と、その妃―下女の格好がなんとも似合う風変わりな令嬢―を頂点に、今日もリートルード王国は平和であった。
END
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