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貴族でありながら商売や農業に興味を持ち、幼い頃は市井を駆け回っているのが好きだったマルグリット。
実を言うと、
貴族にさえ生まれていなければ唯一の取り柄でもあるハープの腕を活かして旅の吟遊詩人になるか、
酒場の女主人などになって荒くれどもの相手をしたいとまで思っていた。
―それが、齢16にして側室に、
そして後宮という名の檻に閉じ込められることになるなんて――
なんとも気が重い。
少女は再度ため息をついた。
「お嬢様、そんなめったなことは仰ってはいけません。旦那様がまた嘆かれます。」
「……そうね。」
丁寧に結いあげられた自身の黒髪を弄びながら、マルグリットは侍女の方を見た。
少し明るめの茶髪が印象的なルビアは、マルグリットがまだ幼い頃からずっと世話係として仕えてきた女性である。
マルグリットより少し年上のルビアは、冷静沈着に物事を見極め、
時に気の置けない友人として、時に頼れるお姉さんとしてずっと支えてきてくれた。
父親から侍女を一人だけ連れて行ってよいと言われた時も、真っ先にあげたのは彼女の名前だった。
しかしマルグリットが信頼をおく彼女にも、マルグリットの性分はどうにも理解しがたいらしく、
どんなに理想を語っても苦笑を返されるばかりだった。
―だから、余計に面白くない。
賛同者がいない理想論を語ったって、つまらないのだ。
「さあ、支度が出来ましたよ。」
「…分かったわ、行きましょうか。」
―とはいえ、今更両親が心待ちにしている後宮入りを拒否することなどできはしない。
マルグリットはいつもより着飾っている自身の腰を上げ、部屋を後にした。
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