侯爵令嬢、王宮にあがる

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「マルグリット……!ついに、この日がやってきたな!こんな喜ばしいことはないだろう!!」 ―玄関から光のさしこむ門まで歩き、豪奢な馬車の前。 男泣きでマルグリットを抱きしめてきたのは、当代ウェリントン侯爵である彼女の父親だ。 普段は冷静な領主を演じているのだが、実際は家族を愛するどちらかというと情熱的な男だ。 マルグリットは傍に控える母親と兄と目を合わせ、互いに苦笑いを浮かべた。そして、 「ええそうですね、お父様。私もこの日を心待ちにしておりました。」 そんな心にもないことをさらりと言い放つ。 しかし感極まっているウェリントン侯爵は彼女の心のうちなど全く気付かず、さらに声を上げた。 「ああ、そうだろうとも!だが、心配だ。お前はまだ16になったばかりだというのに後宮入りなど……早すぎたのではないか?」 「大丈夫ですわ。マルグリットは王宮でも立派にやっていけますよ。」 「そうだよ、父上。少しは落ち着きなって。今生の別れでもあるまいし。」 侯爵夫人である母と、次期侯爵となる兄は父をなだめる。 流石に家族と言うべきか、彼らにとっては侯爵の扱いなどお手の物だ。 侯爵はようやく愛娘の身体を離し、豪快に鼻をすすった。 「わ、分かっておる…!しかし一度後宮に入れば、家族といえどなかなか面通りは敵わないのだぞ。別れを惜しむくらい……」 「あなたが別れをいつまでも惜しんでいたら、日が傾いてしまいますわ。…さ、マルグリット。この人はいいから早く馬車に乗りなさい。」 「!」 妻にスパッと断ち切られ、侯爵は打ちひしがれる。 彼の背後にはガーンと効果音がつけられるだろう―そんな表情をしていた。 言いつけ通りさっさと馬車に乗ったマルグリットは、中から相変わらずな父母の姿を見、ふと笑みをこぼす。 ―流石、お母様。お見事ね。 ―当然よ。伊達に何十年も付き添ってきたわけではないわ。 母娘は視線でそんな会話をすると、さらに目を合わせて笑った。 .
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