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「…まあでも、よかったじゃないですか。陛下にお会いできて。」
「よくなんかないわよ…エイミィの姿であまり目立っちゃいけないのに。」
「あの子だったら逆に喜ぶ気がしますが。」
「そうだとしても、私は嫌よ。下手したらなりかわりが知られちゃうかもしれないでしょう?」
「…もう一度、会いたいとかは。」
「ないわ。むしろ二度と出くわしたくないわね。」
「はあ……」
――『二度と』、は側室としてはマズイ発言では?
どうやらマルグリットは国王陛下に対し全く興味がないらしい。
『すごい美男子(イケメン)だったわ』とは評したが、それだけだ。
彼女にとって、何より優先すべきは『下女としての生活』であった。
いや、国王陛下を二の次って…
なんだかもう、空しいやら悲しいやらで、ルビアは何も言えなかった。
「それにしても、普通、国王が一介の下女に声をかけるなんてあり得ないわ。国王様も何を考えているのかしら。」
「そうですね…お嬢様が余程変な行動をしていたからでは?」
「う。…否定できないわね。」
「しかも結局、その得体のしれない花を置いて行ったんですよね?役に立つ、とか適当なことを仰って。…もし、嘘だと知られたら……」
「あーもう!その話はやめて!あまり考えたくないの!」
痛い所をつかれ、声をあげるマルグリット。
16年の黒歴史にまたもランクイン確実の出来事だ。
過去に戻れるのなら、ついさっきの自分を殴り倒したい。
彼女は力なくうなだれ、はあ、と息をついた。
「まあ、いいわ。多分もう一生会うこともないでしょうし。」
―だから、『一生』では困ると言うのに。
ルビアは、いっそまた陛下と偶然に遭遇してはくれないか、と人知れず願った。
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