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「…ふう。」
本日の会議を終え、一度自身の政務室に戻ってきた国王は椅子に腰かけた。
資料のまとめをしなければ、と机の上に散らばった紙の束に手をかける。
―その時に、ふと机の隅に置かれた花瓶が目に入った。
そこには一輪の花が生けてあり、風に吹かれて少し花弁を揺らしている。
そう、先日赤毛の下女から半ば押しつけられるようにして貰った花だ。
――いつ見ても、奇妙な花だ、と彼は思う。
海底のような色合いは勿論、その花弁や葉のつきようが普通のものとは違う。
鑑賞用の花にしてはあまりに不格好で、奇怪な見た目だ。
―こいつが、何かの役に立つ、だと?
赤毛の下女の言うことを鵜呑みにするわけではないが、ヴィルフリートはどうにもそのことが気になった。
…いや、実を言うと彼は、花よりももっと変なあの下女のことを考えていた。
―昨日。
政務が終わり、珍しく供も付けずに庭園を散歩していたら、件の赤毛の下女が隅でしゃがみこんでいるのを見つけた。
それが何とも真剣に茂みの奥を見つめているものだから、
今度は何をしているのだろう、と好奇心から声をかけてしまったのだ。
その時の、ひどく驚いていた彼女のことを思い出しまた笑いがこみ上げてくる。
自分は、本当は笑い上戸だったのか?と紛うほどだ。
何なんだろう、この愉快な気持ちは。
あの後花を置いて大慌てで走り去って行ったが、あいつは結局なにがしたかったのか、とか。
少し前に噴水を覗きこんでいたが、あれは何を見ていたのだろう、とか。
……名前を聞きそびれた、とか。
しばらく花を眺めながら赤毛の女について思考していると、ふいに扉を叩く音が聞こえた。
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