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早朝。
まだ日が昇って幾許もないころだが、赤毛の下女はすでに仕事についていた。
花壇の花の水やりをするのが本日最初の仕事だ。
マルグリットは井戸水をたっぷりと汲んで、ジョウロに移した。
「よっと。…うーん、重いわね。」
大きなジョウロを胸に抱えながら歩くが、その足取りはかなりあやしい。よたよたとふらついている。
それでもなんとか花壇までたどり着き、やれやれと地面にジョウロを置いた。
「朝早くから御苦労だな。」
「………。」
―と、背後から話しかけられ、マルグリットはぎくりと体を強張らせる。
振り返らなくても声の主が誰だか分かる。
またか、とマルグリットはため息をつきたくなった。
「…陛下。またいらしたんですか?」
「何だ、来てはいけないのか。」
振り返れば、やはり予想した通りの人物が立っていた。
―朝もやの中、銀髪は少しくすんで見えるが
いつもと変わらず美しい姿のヴィルフリートが。
彼は赤毛の下女と目を合わせ、口角を上げた。
「いえ、まさか。でもまだ朝も早いお時間ですし、寝室へ戻られた方が…」
「今日は早く目が覚めたから、散歩中だ。」
「ならば、別の場所に。ここではお召し物が汚れてしまいます。」
「どこを歩こうが私の勝手だろう。」
王は憮然とした態度でそう言った。
…いつものことだが、話にならない。
聡明との噂だが、『空気を読む』ことはできないのかこの人は。
下女は引きつった笑みでそうですか、とだけ答えた。
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