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「…そういえばそうだな。だが欠勤した兵士の代わり、というだけではないか?」
「それはありえませんよ。休暇願も欠勤願も、本日、あの近辺担当の兵士からは出ていないはずです。」
「…詳しいな。」
「まあ……えっと、そうですね。とある情報をもらいまして。」
マルグリットは曖昧に笑った。
―実は、下女の同僚にとある兵士に恋をしている娘がいて、愛しの彼の担当先を日々調べまくっているのだ。
今朝、たまたま会った彼女がそう言ったのを思い出し、話しただけのことである。
…まあ、彼女の名誉にかけて、そのことを口にするつもりはないが。
マルグリットが情報通の彼女を思い浮かべていると、ヴィルフリートは思案顔で頷き、口を開いた。
「まあ…確かに気になるな。少し調べてみることにしよう。」
「そうですか。」
「で、エイミィ。私がここに来たのは…」
「――陛下!!」
―すると、執事か召使の一人だろうか。
だいぶ年を召した老人が、血相を変えてこちらに走ってくるのが見えた。
ヴィルフリートは忌々しげに舌を打つ。
「ああ、こんな所にいらっしゃったか!何故、寝所におられないのですかっ!」
「…早朝の散歩だ。」
「それならそうと、一言仰ってください!侍従の者が真っ青な顔で報告してきましたぞ!?」
必死の形相で懇願する老人。
やはり、この王は寝台をこっそり抜け出してきたらしい。
…だから言わんこっちゃない。
側近の人も大変だな、とマルグリットは密かに笑った。
「では、ごきげんよう。国王陛下。」
―ともあれ、陛下の意識を逸らし不自然にならない程度に場をつなげることができてよかった、と思いながらマルグリットは彼に向かって一礼をした。
そして、
――今度から絶対、絶対に団体行動に徹しよう。
マルグリットはそう決意も新たに速足でその場を後にしたのだった。
去って行く下女を見て、ヴィルフリートは眉をひそめた。
「……また逃げられてしまったか。」
「―陛下?何か仰られましたか?」
「いや、何でもない。…それよりも聞きたいことがある。あそこの警備備担当の兵士についてだが……」
だがすぐに顔に表情を消すと、王は先程のことを老人に話しだした。
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