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「――最近、随分とご機嫌がよろしいようですが。」
ユインからのひとことに、ヴィルフリートは手を止めてそちらを見た。
いつも通り冷静な蒼の瞳が自身を見下してくる。
しかし、その視線には『興味』がありありと浮かんでいるのに気付いた。
ヴィルフリートは再度ペンを持ち直し、そっけなく答える。
「そうか?」
「はい。何かございましたか?」
「特にはないが。」
「そうですか。」
白々しい返答を繰り返す王と側近。
――そんなはずはないでしょう?教えて下さいよ。
――何もないと言ってるだろうが。
ユインの方は王の動向を見破ろうとし、王はすげなくかわそうとする。
まるで化かし合戦のような冷戦に、執務室内はひやりとした空気に包まれていた。
…通常なら穏やかな春の陽気に包まれているはずなのだが。
「それはともかく、例の件は調べたか?」
「ああ、はい。」
分が悪いと悟ったのか、ヴィルフリートはさっさと話題を変えた。
ユインは渋い顔を見せたものの、すぐに『仕事』の顔を作り書類をまくる。
「あの兵ですが…調べたところ、クライス国からの間者でした。」
「…クライス国。それは確かか?」
「ええ。おそらくレイノッド国の貿易権に関して調査しているのでしょう。」
「成る程な。」
王は頷いた。
あの薬花の一件で、隣国のレイノッドから少なからぬ利益を得たリートルード。
交易の流通もその一つで、以前にまして多くの物品が国同士を行き来するようになった。
だが、元々レイノッドの一番の取引国であったクライス国にとっては、面白くない事態である。
リートルードに探りを入れて来たのは当然といえば当然の流れだった。
もちろん、ヴィルフリートもそのことはすでに考慮に入れていたので、あまり驚くことではなかったが。
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