午後の茶会

2/11
1148人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
「――最近、随分とご機嫌がよろしいようですが。」 ユインからのひとことに、ヴィルフリートは手を止めてそちらを見た。 いつも通り冷静な蒼の瞳が自身を見下してくる。 しかし、その視線には『興味』がありありと浮かんでいるのに気付いた。 ヴィルフリートは再度ペンを持ち直し、そっけなく答える。 「そうか?」 「はい。何かございましたか?」 「特にはないが。」 「そうですか。」 白々しい返答を繰り返す王と側近。 ――そんなはずはないでしょう?教えて下さいよ。 ――何もないと言ってるだろうが。 ユインの方は王の動向を見破ろうとし、王はすげなくかわそうとする。 まるで化かし合戦のような冷戦に、執務室内はひやりとした空気に包まれていた。 …通常なら穏やかな春の陽気に包まれているはずなのだが。 「それはともかく、例の件は調べたか?」 「ああ、はい。」 分が悪いと悟ったのか、ヴィルフリートはさっさと話題を変えた。 ユインは渋い顔を見せたものの、すぐに『仕事』の顔を作り書類をまくる。 「あの兵ですが…調べたところ、クライス国からの間者でした。」 「…クライス国。それは確かか?」 「ええ。おそらくレイノッド国の貿易権に関して調査しているのでしょう。」 「成る程な。」 王は頷いた。 あの薬花の一件で、隣国のレイノッドから少なからぬ利益を得たリートルード。 交易の流通もその一つで、以前にまして多くの物品が国同士を行き来するようになった。 だが、元々レイノッドの一番の取引国であったクライス国にとっては、面白くない事態である。 リートルードに探りを入れて来たのは当然といえば当然の流れだった。 もちろん、ヴィルフリートもそのことはすでに考慮に入れていたので、あまり驚くことではなかったが。 .
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!