侯爵令嬢、王宮にあがる

6/8
前へ
/201ページ
次へ
********** 「…やっぱり、退屈だわ。」 ――後宮入りを果たして三日目の午後。 マルグリットはあまり上品とはいえない格好で椅子に腰かけて、うなだれるように呟いた。 椅子に施された精巧な鳥の模様をなぞりながら頬杖をつく。 初日に案内してもらったこの自室も初めこそ装飾や家財道具の豪華さに目を輝かせたものの、今ではそれも慣れてしまい何の感動もない。 ―後宮での生活は、彼女の予想していた通り退屈なものだった。 ここにきてやったことといえば、日がな一日部屋にこもって手芸だの読書だのをしただけ。 そして、今も。 午後三時のティータイムの紅茶はもう飲み干してしまったし、持ってきた本は読みつくしてしまった。 さて、次は何をしよう、と考えても選択肢は限られている。 ―要するに、彼女は暇であった。 そして、肝心の国王との関係はというと――まだ、ない。 …というか、会ったこともない。 実は王の政務が忙しいとのことで、初日に顔を合わせられなかったのだ。 そして、それきり全く音沙汰がない。今日も今日とて自室にこもり暇つぶしを探すばかり。 しかし――それも当然だろう。 まだ若く美丈夫であるという噂の国王には、すでに十を超す側室たちが後宮に存在する。 いずれも、家臣や隣国の王が躍起になってあつめた美しい令嬢ばかりだ。 マルグリットもそのうちの一人なわけだが……はっきり言うと、人数合わせのようなもの。 王妃となるのに十分たる爵位こそあれ、容姿も体型もまるで平凡、器量も特に優れているわけでない彼女は、まさしく『普通』の令嬢。 むしろ華やかな後宮内では霞むくらいの薄い存在だ。 また、王の渡りを待って自分を磨いたり目をかけてもらおうと媚を売ったりするのが得意ではない彼女は、 周囲にろくなアピールもしていないためさらに存在感をなくしていた。 .
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1173人が本棚に入れています
本棚に追加