午後の茶会

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「…あの兵士が間者だった?」 「そうだ。クライスからの、な。」 陛下直々に懇切丁寧な説明をされ、成る程、と下女は頷く。 あの不審な交代の正体は、他国からのスパイだったというわけか。 早朝で人が少ない時間帯だったとはいえ、なんとも間抜けな失敗をするものだ、とマルグリットは思った。 「彼の国はレイノッドの交易権が我が国に優先されるようになったのを訝り、探りを入れて来たのだ。まあ、予想はしていたが…。」 「…陛下、よろしいのですか?そのような機密を彼女に話して。」 すると、内情を惜しげなく話す王に横やりが入る。 金髪碧眼の男、国王の側近であるユインだ。 マルグリットは初めて見る彼の姿に萎縮して、椅子の上に縮こまった。 「………。」 何の変哲もない下級召使。 どこにでもいそうなこんな娘ひとり捕まえて、王は何がしたいのだ。 しかもまだ上層部の一部にしか報告していないことをペラペラと―― ユインは目の前の下女を見下し、理解できない、とばかりに首を振る。 だが、当の国王は何を言っているんだとばかりに反論した。 「いいもなにも、そもそもの原因であるあの花を見つけたのはこの下女だぞ。」 「―なんですって?」 「兵士の様子がおかしいことを指摘したのも、だ。相手に結果を教えるのは当然だろう?」 「……な、」 それはユインにとって、思いもよらぬ返答だった。 降ってわいた幸運としか思えない、あの奇跡の出来事。 そして間者の早期発見。 すべてがこの赤毛の女の仕業だというのか。 そんな、まさか―― 目を見開き、驚きを隠せないユイン。 対する国王は、側近の期待通りの反応に満足げにニヤリと口角を上げた。 「まあ、それで、今日はお前の功績をたたえて特別に茶会を開いたのだ。存分に味わうがよい。」 「そ、それは…恐縮です…」 しかし、それはできればして欲しくなかったかな… マルグリットは乾いた笑みを貼りつけながら、心中では冷や汗まみれだった。 .
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