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―神に誓って言おう。
これは単なる偶然の重なりだと。
珍しいと思って目に留めた花が難病を治す薬とは知らなかった。
兵士の交代がオカシイと気付いたのも恋する乙女パワーのおかげで…マルグリット本人とは関わりはない。
――それが…何でこんなオオゴトになっているのよ!
マルグリットは半ばキレながらも、
ごめんエイミィ、と最早何回目かも分からない謝罪をひたすら繰り返した。
「……エイミィ?聞いているか?」
「…あ!はいっ!」
マルグリットは弾けたように顔を上げた。
―そうだ、今はこの状況を切りぬけるのが先決だ。
後でルビアに愚痴をたっぷり聞いてもらうとして、何事もなくこの茶会をやり過ごさなければ!
「ほら、好きなものを食べろ。どれも一級品だぞ。」
「は、はい…本当に素晴らしいですね。」
「そう、例えばこの紅茶は非常に珍しいものでな、少数民族が独自の方法でブレンドしたものらしい。飲んでみろ。」
「あ、そ、そうですか。…では………!」
―とりあえず、これ飲めばいいのね。
下女が慌てて手に取ったのは、湯気の立つ美味しそうな紅茶。
だが、その薄い赤色の液体を口に含んだ途端――『エイミィ』の顔つきが変わった。
――このにおい、味……。
「!?」
瞬間、周囲がざわめいた。
突然、下女がペッと口の中の液体を吐きだしたのだ。
王の御前であり得ない蛮行。
しかし本人は、いきなり何をするんだ!?とざわめく人々には目もくれず、素早く正面に視線を走らせる。
そして陛下が今まさにカップに口をつけるところを見て、マルグリットは叫んだ。
「待って下さい!!」
「?…なんだ、どうしたんだ。」
ヴィルフリートも彼女の気迫に圧倒され、茶を口に運ぼうとしていた手が止まる。
その隙に蹴り倒さんばかりに椅子から立ち上がり、ずかずかと王の傍まで寄った下女。
そして彼のティーカップからも漂う異質なにおいに気付き、心の中で一瞬ため息をつく。
――ああもう、目立ちたくなかったのに。
「――陛下、それ、飲んじゃダメです。」
「は?」
国王の返事も待たず、下女はティーカップを払い落した。
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