侯爵令嬢、王宮にあがる

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―マルグリットは、自分が王に見初められることなど万にひとつもあり得ないだろうと確信していた。 もちろんマルグリットだって一人の女の子だ、巷で流行りの恋愛小説のような王子様との恋だって夢に描いたことはある。 だがそれはあくまでも物語の中の話であって、いざその立場に自分を置き換えてみると、いまいちピンとこない。 子ども、と言われてしまえばそれまでだが、ああいうのは物語の中の人物が演じるからこそ意味があるのであって自分には遠い世界のことのように思っていた。 そして、実際に後宮入りした今でもそう。 やはり国王は遠いおとぎ話の存在に過ぎなかった。 「だから言ったのよね。向いてないって……」 ぶつぶつと愚痴のようにこぼすマルグリット。 『側室』として部屋に閉じこもって読書をしたり刺繍をしたり…また、茶会を開いて優雅な昼下がりを過ごすなどどうにも性に合わない。 ――これなら実家の庭で珍しい野草を探したり、お兄様と一緒に遠乗りに出た方がよっぽど楽しいわ。 もっとも、それが叶うわけがないということくらい、彼女も重々承知だ。 だが、ここで退屈を殺せる方法が見当たらないのだからイライラしても当然だろう。 マルグリットはぶすくれたまま、硝子越しに外の景色を見た。 窓から見える王城は広く、たくさんの部屋があり様々な人が行き交っている。 後宮の隅に位置するマルグリットの部屋からはすべては見渡せないが、 広い中庭とその向こうの城壁の様子をうかがうことはできた。 ――城壁に沿うように配置されているのは警備の兵ね。先程から全然動かないけれど、どこを見ているのかしら。交代を今か今かと待ち望んでいるのかしら。 ――今、中庭の横を通り過ぎたのは庭師の方よね。この城には十か所以上も庭園や薬草園があると聞いたけれど、私はまだどこも探索していないわ。後で案内してもらいたいわね。 王宮に来て、三日。―まだ三日。 とてつもない広さを誇る城内には知らないことが多く、それがまた――わくわくする。 好奇心旺盛で珍しいものが大好きなマルグリットはそれを見るとうずうずして興奮が抑えられなかった。 .
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