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「そんなに下女がお好きなら、本当に下女になってしまえばよろしいのでは?」
「………。」
マルグリットが息せき切らして『ウェリントン侯爵令嬢』の自室に戻った途端、
中にいた女性にそう嫌味を言われた。
黒髪に、緑の瞳。
鮮やかなブルーのドレスに身を包んだその女性は、まさしくマルグリット・セシーリア・ウェリントン侯爵令嬢――
ではなく、その偽物のエイミィだ。
自信たっぷりにその唇をゆがめ、赤毛の下女にほほ笑みかける。
しかし、その瞳は鋭く下女を睨みつけていた。
「随分と、下女の仕事を楽しんでいるようじゃないですか。同僚たちにも聞きましたよ、仕事熱心だと。」
「…まあ、それはどうもありがとう。」
「ええ。『私』の評価も上がるばかりですし、本当に感謝してます。そして、こちらの――『マルグリット様』の評価も、ぐんぐん上昇中ですよ。」
「そうなの?ルビア。」
マルグリットは侍女のルビアに問いかける。
するとルビアは少々言いにくそうに答えた。
「…はい、『マルグリットお嬢様』は、毎日のように茶会に出かけ、流行の装飾品をいくつもお買い求めになってはそれをつけ、他の側室の皆さまと親睦を深めていらっしゃいます。」
「ああ、そうなの。すごいわ、エイミィ。」
「まあ、貴女とは気の入りようが違いますもの。」
ふん、と鼻を鳴らすエイミィに、マルグリットは素直に感心した。
話し方もまるで貴族のようだ。
おそらく、彼女なりにかなりの努力をしたに違いない。
だがその反応が気に食わなかったのか、
エイミィはぴくりと眉を不快気に動かし、マルグリットを見下したように嘲笑った。
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