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「ええ、貴女がいない間、側室として有意義な時間を過ごさせていただきましたわ。きちんと身だしなみを整え、お洒落をして。まるで夢のようでした。
…マルグリット様が何故この立場を厭うのか、未だに理解に苦しみますが。」
「………。」
「そのボロボロの手なんか、もう見るに堪えませんわ…見て、私なんて今日、爪を磨いてもらったのよ。綺麗でしょう?」
言いながら、綺麗に整えられ、キラキラ光る装飾用の香油が塗られた爪を見せびらかすエイミィ。
確かに、荒れてささくれだっているマルグリットの両手と比べると雲泥の差だろう。
マルグリットは苦笑しながらそうね、と同意した。
「きっと、貴女は産まれてくる場所を間違えなさったのね。私の方がよほど貴族として相応しいもの。」
「…エイミィ!何を――」
「いいのよ、ルビア。」
流石に『下女』の無礼な態度に腹を立てたのか、ルビアが大声をあげる。
しかしそれを主は遮り、エイミィに向きあった。
「そうね、エイミィは貴族としてとても相応しくなったと思うわ。…でも、ごめんなさい、今日は早めに私と入れ替わってくれないかしら。」
「…何故?」
「ほら、星蘭祭が近いでしょう?準備に追われた小間使いたちが夜遅くまで働いているものだから、いつもの時間だと、『なりかわり』が知られてしまうかもしれないの。」
「……そうですか、なら仕方がありませんわね。」
不服気な表情を作ったエイミィだが、
彼女のもっともらしい言葉に納得し、『下女に戻る』ためにさっさと隣の部屋に入って行った。
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