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「お嬢様!」
「…なに、ルビア。」
「なに、じゃありません!なんですか、アレは!」
エイミィがいなくなるや否や、侍女は憤慨する。
初めはおどおどとし、慣れないドレスに四苦八苦していたエイミィだが、
元々の性格か、贅沢をすることに味をしめたのか、
日を重ねるにつれ段々と態度が大きくなり、あのようにつけあがり始めたのだ。
――元は一介の下女のくせに。
ルビアはエイミィが『マルグリット』として高笑いをしているのを見る度に、腸が煮えくりかえった。
しかも、先程の様子はなんだ。
まるで自分の方が『本物の貴族』と言わんばかりの言動でマルグリットを見下して。
お嬢様の計画に協力してもらっているとはいえ、本当に醜い娘となったものだ――
だが、怒りをあらわにする侍女に対して、マルグリットは極めて冷静に答えた。
「別にいいのよ、そんなの。」
「そ、そんなの!?お嬢様は気にならないって言うんですかっ!?」
「想定の範囲内よ。元々下女として働いていた子よ、この状況に浮かれるのも無理はないでしょ。」
「…予想、していたと?」
「まあ、ある程度はね。」
マルグリットはふう、と息をつく。
この『なりかわり』が始まった時から、『マルグリット』に変装するエイミィの態度が変わることくらい、とっくに予想していた。
なんせ、贅沢とは無縁だった一般庶民が、打って変わって綺麗なドレスを着たり美味しい食べ物を食べたりできるのだ。
…しかも労働は一切する必要なく。
それは、多少つけあがっても仕方のないことだろう、とマルグリットは思う。
…いや、そんなことよりも、だ。
マルグリットは再度、深いため息を吐いた。
「彼女に謝るのは私の方よ…まずいことになったわ。」
「ま、まずいこと…?」
「ええ。」
―と、そこに、下女の制服に身を包んだエイミィが戻ってきたので、マルグリットは一旦話を切った。
そして、今度は自分も着替えるため、立ち上がる。
着替えた後、ルビアにどう説明したものか、と思いをはせながら――
これからの『エイミィ』の処遇。
国王陛下の判断。
毒を入れた犯人の動向。
考えるだけで頭が痛くなるようなことばかりだ。
――ああ、まったく。厄介なことばかりだわ……
マルグリットは三回目のため息を吐きながら、自身のエプロンに手をかけた。
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