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――そうだ、ここにもまだまだ面白そうなものはたくさんある。
例えば中央の広場に湧きあがる噴水の上に散らばる花弁の色とか、
高くそびえる北の塔に住む住人のこととか、
行商に来た異国の商人の売り物は何か、とか。
そう考えるともう、マルグリットは居ても立っても居られない。
王からの寵愛など最初から期待していない。
おそらく期日まで後宮で何事もなく過ごし、さっさと家に帰されることとなるだろう。
だが、それまでは―――
せっかく城に入ったのに、部屋に籠りきりでは面白くない。
王宮内隅々まで歩きまわって、探険したいと思った。
しかし、『側室』という身分がそれを邪魔する。
ただ今のマルグリットは何の力も持たない後宮のにぎやかし担当だが、仮にも一国の王の側室。
後宮内はともかく城の内部をむやみに歩き回ることは禁じられているのだ。
どうにかして自由に歩けないものかしら、とマルグリットはあごに手を当てて考え、
そして―――
「お嬢様、失礼します。本日のお茶はいかが――」
「…決めたわ、ルビア。」
「はい?」
「私、この王城の下女として働くわ!」
マルグリットは茶器を下げに来た自身の侍女にそう高らかに宣言した。
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