訪問者

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「え?もう行かれるの?」 「ああ、元々王宮にちょっと用があってね。マリーには悪いけど、ここに来たのはそのついで。」 「ちょっと、それなら私の方を後回しにすればよかったじゃない!ほら、早く行って!」 「はは、手厳しいな。」 飄々と笑うフロリアンを押しながら、マルグリットは面会室の扉を開け廊下に出た。 侯爵令嬢の自室に続く長い回廊を歩く間、フロリアンとマルグリットの間に会話はほぼない。 マルグリットの方に話をする元気がなかったせいか、ひとことふたことで会話が途切れてしまう。 そうしている内に、マルグリット・ウェリントン侯爵令嬢の部屋にたどり着いた。 マルグリットがほっと息をついて扉を開けようとすると、フロリアンが彼女の耳元に口を寄せた。 「じゃあね、マルグリット。……お転婆もほどほどにね。」 そう囁いた兄は、そのまま颯爽と廊下を歩き、姿を消した。 そして、呆然と扉の前に立ちすくむマルグリット(本日二度目)。 しばらくすると、内側から扉が開き侍女のルビアが顔を出した。 「あらお嬢様、どうなさったんです?こんな所で…。あ、そういえばフロリアン様がお見えになったと聞きましたが、どちらに?」 「もう退出なさったわ…。なんでも、用事があるらしくて。」 「あら、そうなのですか。せっかく美味しいお茶菓子をお持ちしたのに…って、お嬢様?大丈夫ですか!?」 「ルビア、ごめん…もう今日は休む……」 マルグリットはふらりと自身の体をルビアにもたれさせ、そう力なく呟いた。 『……お転婆はほどほどにね。』 ――最後にそう言い残した兄は、きっと気付いている。 私がこの王宮で何か『お転婆』をしていると。 そして、早く辞めないと父に『土産話』を報告すると――! ただでさえ追いつめられた状況なのに、思わぬ伏兵の登場にどっと疲れたマルグリット。 宣言通り、自室に着くなり寝台に倒れ込み、そのまま深い眠りについたのだった。 .
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