1148人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
「え?もう行かれるの?」
「ああ、元々王宮にちょっと用があってね。マリーには悪いけど、ここに来たのはそのついで。」
「ちょっと、それなら私の方を後回しにすればよかったじゃない!ほら、早く行って!」
「はは、手厳しいな。」
飄々と笑うフロリアンを押しながら、マルグリットは面会室の扉を開け廊下に出た。
侯爵令嬢の自室に続く長い回廊を歩く間、フロリアンとマルグリットの間に会話はほぼない。
マルグリットの方に話をする元気がなかったせいか、ひとことふたことで会話が途切れてしまう。
そうしている内に、マルグリット・ウェリントン侯爵令嬢の部屋にたどり着いた。
マルグリットがほっと息をついて扉を開けようとすると、フロリアンが彼女の耳元に口を寄せた。
「じゃあね、マルグリット。……お転婆もほどほどにね。」
そう囁いた兄は、そのまま颯爽と廊下を歩き、姿を消した。
そして、呆然と扉の前に立ちすくむマルグリット(本日二度目)。
しばらくすると、内側から扉が開き侍女のルビアが顔を出した。
「あらお嬢様、どうなさったんです?こんな所で…。あ、そういえばフロリアン様がお見えになったと聞きましたが、どちらに?」
「もう退出なさったわ…。なんでも、用事があるらしくて。」
「あら、そうなのですか。せっかく美味しいお茶菓子をお持ちしたのに…って、お嬢様?大丈夫ですか!?」
「ルビア、ごめん…もう今日は休む……」
マルグリットはふらりと自身の体をルビアにもたれさせ、そう力なく呟いた。
『……お転婆はほどほどにね。』
――最後にそう言い残した兄は、きっと気付いている。
私がこの王宮で何か『お転婆』をしていると。
そして、早く辞めないと父に『土産話』を報告すると――!
ただでさえ追いつめられた状況なのに、思わぬ伏兵の登場にどっと疲れたマルグリット。
宣言通り、自室に着くなり寝台に倒れ込み、そのまま深い眠りについたのだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!