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「―報告を。」
夜遅く、本日分の雑務を終え、私室へと向かう途中のヴィルフリートが闇に向かって静かに尋ねた。
傍に控えていた侍従―ユインははい、と短く返事をし彼の隣を歩く。
「申し訳ありません、陛下。あの後すぐに厨房に駆けつけたのですが…取り逃がしてしまったようです。」
曰く、
ユイン率いる兵士たちが犯人の跡を追い、厨房に駆けつけた時
毒の粉末らしきものを発見したが犯人と思しき侍女はすでにいなかった。
また、その他特に手がかりとなるものは見つからなかった。
現在、犯人並びに内部で手引きをした者がいないか調査中ではあるが、あまり進捗は芳しくない、とのことだった。
「つまり、手がかりは全くないというわけか?」
「そうですね…裏で手を引く者と関連付ける証拠は何も。」
「先日の間者との関連は、」
「…申し訳ありません。分からず仕舞いです。」
「紅茶に入っていた毒草…ディーボ草と言ったか。それもありふれた雑草らしいしな。」
敵の跡を追おうにも手がかりはなし、毒草の入手経路も役には立たない…
―これは、手詰まりだろうな。
ぼそりとそう呟いた王はそこで一旦言葉を切り、場に静寂が生まれる。
暗闇の中、カツカツと両者が靴音を鳴らす音しか聞こえない。
が、一瞬の間の後ユインは決心したように顔を上げ、前を向き歩く国王を見据えた。
「陛下……あの下女は、何者なのですか?」
赤毛に明るい緑の瞳をもった平凡な16歳の少女、エイミィ。
王宮内で雇われている下女で、主に掃除・洗濯を担当している。
両親はともに健在で、王都にて商店を経営している……
ざっとあの下女の素性を調べてみたが、書類上特に怪しいところは見受けられなかった。
ごく普通の生まれで、ごく普通に仕事をこなす下女。
―だが、それにしてはどうもおかしい。
ユインは不可解だ、とばかりに眉をゆがめた。
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