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昨日兄であるフロリアンに会って、いくつかの言葉を交わした時、
心の奥を見透かされたような錯覚を覚えた。
そして――釘を、刺された気がしたのだ。
お前は貴族の令嬢だ、それも後宮入りを果たした側室だ。
だから遊ぶのもほどほどにしろ、早く分別のある大人になりなさい。
――『身分をわきまえなさい』。
兄の穏やかな茶色の瞳はそう雄弁に語っていた。
それを聞いてここ数日、マルグリットは随分と時間をかけて考えた。
彼女やエイミィ、そしてルビアに周りの人々…全ての人にとって最善の道は何か。
その結果が『なりかわり生活』の終わりだった。
――当初は、絶対に上手くいくと思っていたのだ。
エイミィは『側室』となって楽しい日々を送っているようだったし、
自分も下女となって自分の目的を果たせて満足していた。
しかし、それもつかの間。
自分が『エイミィ』となってから、事ある毎に事件を起こしてばかりで。
下女として有るまじき行為を連発し、陛下にも目をつけられ…
そして、下らない正義感に動かされた結果、『エイミィ』を危機にさらすこととなってしまった。
今現在も、『エイミィ』は狙われているかもしれない。
だが、これ以上『なりかわり』をして厄介事に首を突っ込んで、過ちを犯すわけにはいかない。
それに、今では『なりかわり』が誰かに知られてしまうことの方が、もっと恐ろしく感じられた。
自分だけならいいが協力者であるエイミィやルビアにどんな罰が下されるか、と考えると震えが止まらない。
マルグリットは、兄に見破られそうになって初めてそのことに気付いたのだった。
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