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「…………。」
かちゃ、とカップを置いたマルグリットは、不機嫌そうに眉をしかめた。
部屋の真ん中にあるテーブルに手を置き、頬杖をつく。
しばらくは無言でそのままの体勢でいたのだが、
「ああ、もう!意味が分からないわ!!」
そして、ついに苛立ったようにそう叫び、立ち上がった。
彼女を苛立たせているのは他でもない。
先程下女のエイミィが放った『エイミィ後宮入り宣言』だ。
―エイミィの話によると、
今朝起きてすぐに伝令役が彼女の部屋に来て、王からの勅命を伝えたらしい。
それは『国王陛下がお前を後宮に上げるとのお達しである』という簡潔なもの。
そしてその証拠に、とばかりに内容が記された王印つきの書類をもらったようだ。
実際にマルグリットもその書類を見せてもらったが、確かに紙面にはエイミィの後宮入りを許す旨が載っていた。
最初はそんな馬鹿な、何かの間違いだと一笑したが、
リートルード王国の国章と王の直筆サインが入ったそれは、偽物とは言い難かった。
その字面といい用紙の質といい、見れば見るほど、ホンモノの伝令書に見える。
―つまり、ヴィルフリート陛下は本当に下女のエイミィに後宮に入るように言った。
その真実にたどり着いた時、マルグリットは絶句した。
そして長く思考した末、冒頭のひとことに戻るわけである。
「まあ、確かに突拍子もないことではありますが…
『エイミィ』の後宮入りを決められたのは、何か陛下ご自身のお考えがあってのことだと思いますが。」
ルビアはそうなだめ、マルグリットに再度座るよう、椅子を引いて促した。
―否、鋭い目つきでそれを強いた、の方が正しいか。
この室内にいる時くらいは大人しくしてください、と訴えかけてくる眼差しに、マルグリットはしぶしぶ元の姿勢に戻った。
再び右手で頬杖をつき、侍女を見上げる。
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