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…そう、今回のことはどう考えてもメリットよりデメリットの方が大きい。
確かに後宮という檻に入れることで『怪しい下女』の監視ができ、且つ外敵から身の安全が守られる。
だがこうなれば、下女を狙おうとする犯人も中々手出しができない故に、犯人の特定並びに確保は遅れることだろう。
それ以前に――そもそもエイミィに後宮入りを許す方がどうかしている。
エイミィは『下女』だ。
いくら命を狙われる可能性があるとはいえ、貴族とは違い一般庶民出の下女をわざわざ守る必要はない。
監視がしたいのなら牢にでも閉じ込めておけばいいはずだ。
むしろ疑いの晴れていない者をわざわざ後宮に入れるなどという危険な真似を何故、する。
もしやエイミィは後宮ではなく、鉄格子つきの部屋に案内されるのではないか、とマルグリットは訝しんだ。
―それに、だ。
仮に本当にエイミィが後宮に入ることになったとして。
現国王陛下は側室を複数人持っているとはいえ、現在、世継ぎなし寵姫なし。
つまり誰でも寵愛を受けるチャンスがあるという状態。
そこに、はじめて陛下が気に入りの下女(事実は違うが傍から見ればそうだろう。まあ、流石に立場は『愛妾』程度であろうが)を後宮に入れたとなれば――
他の側室のお姫様たちに妬まれ、いびられることになるのは目に見えている。
身分差だの教養の差だのを理由に、酷いいじめが起きることだろう……。
今度は『彼女ら』に毒を盛られるのではないか、と冗談になっていない想像をし、マルグリットは身震いした。
せめて正妃を側室から選んだ後とかならよかったのだが…朴念仁陛下はそれもしていない。
後宮を血の海に変えたいのかあの人は、とさえ思った。
「それに…まだ問題はあるわ。『エイミィ自身』のこと。」
「エイミィが…?」
「…陛下が知っているのはエイミィになり済ましていた私よ。いくら顔や姿恰好が一緒とはいえ、正体がバレる可能性は極めて高いわ。」
「だーいじょうぶですよ!マルグリット様!!」
―と、憂鬱そうに息を吐くマルグリットとルビアの会話に元気よく割り込んできた者がひとり。
ばたーんとドアを勢いよく開けたのは、噂の的である下女エイミィ、本人だった。
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