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「ところで月って、あれの事かい?」 僕は、前を行く彼女に、空を指差しながら尋ねた。しかし彼女は、悪戯な笑みをちらりとこちらに向けただけで、何も答えてはくれなかった。 サプライズの好きな彼女の事だ。これ以上聞いても答えが返ってくる事はないだろう。 そう思い、僕は彼女に引かれる儘に、その後をついて歩いた。 だけど、つい先程まで月明かりで拓けていた視界が、次第に靄に霞み始めると、僕の心にも不安が霞を掛けてくる。 「さぁ、そろそろ帰らないと……」 そう僕が言いかけるのと、 「ついた!」 彼女が嬉しそうに僕を振り返るのが、ほぼ同時だった。 見ると、靄の向こうに家の影が映っている。 僕は不思議でならなかった。狭い町で、小さな頃から育った僕が知らない場所はない筈なのだ。しかも、さっき居た場所から早歩きで来たにしても、それほどの距離を歩いた記憶もない。 しかし、確かにそこには初めて見る家が建っていた。 洋風の三角屋根の建物で、木の柵の入り口から玄関までの間をカボチャで作ったランタンで飾っている。 ハロウィンの飾り付けをしている家を見るのも初めてだった僕は、靄の中、笑ったり泣いたり、怒ったりしているカボチャの顔がぼんやりと浮かぶ様に魅入ってしまい、最初の疑問等、何処かに飛んでいってしまっていた。
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