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あれほどあった料理を、僕は完食していた。それほどまでに、夢中で食べていたのだ。 「ところでこの料理の何処が月なんだい?」 そう言いながら顔を上げると、そこにある筈の彼女の姿が無い。僕は席を立つと、彼女を探し始めた。 隣の部屋からクツクツと、何かを煮ている音が聞こえてくる。覗くとそこは台所で、大きな鍋が弱火にかけられていた。だが、人の姿は無い。 僕は鍋に近づくと、蓋を取った。 その行動は、僕にとって自然なもので、何か考えがあってのものではない。 そしてそこに彼女を見つけた。 闇夜のような黒いスープの中に浮かぶ、白い月のような彼女の顔。 耳元で彼女の声が聞こえる。 「私の『月』は美味しかった?」 「……あぁ、美味しかったよ」 月の光を浴び、白く輝く彼女の顔は美しくて、僕だけのものにしたくて。 門限には帰ると言う彼女が憎らしくて、僕の事をどう思っているのか不安で。 「月を食べたくないか」と惑わせ、誘った。 今、僕の手は彼女で赤く染まり、僕の身体は彼女で満たされた。 だけど『月』の味を知った僕は、また『月』を求めるだろう。 彼女程、美味しくはないだろう。しかしこれは、死ぬまで続く、月の呪い。
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