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少女は、空を見上げながら、歩いていた。空にある月が、ほんのりと彼女の顔を照らす。月は彼女を見守ってくれているというのに、彼女の眼中にそれはなかった。そして、少女はポツリと呟く。
「今日はツイてなかったな」
その声は力無く、相当落ち込んでいることが窺えた。通学中自転車がパンクしたり、途中の通学路が工事中で、通行止めだったり。そして遠回りして学校に着けば遅刻をした。
その他にも色々とあったのだが、キリがないため省略する。とりあえず、今日の彼女はとことんツイていなかった。目指していた皆勤賞はこれでだめになってしまった。
一番のショックはそれだった。
パンクした自転車を放置するわけにもいかず、学校まで持っていき、そして今も押して帰っている。乗って帰る分はいいが、押して帰るのはなかなか大変だ。
「あー、もう!」
少女は叫ぶ。彼女の声に反応する人はいない。
住宅地から少し離れたこの裏道は、人口の明かりはほとんど無い。あるのは、先程述べた月の明かりだけだ。
早く帰って疲れ切った足腰を休めたい、少女はその思いだけで動いていた。
そんな少女の耳に心地いい響きのする声が届いた。しかしその言葉の響きは日本語のそれとは異なっている。
少女が辺りを見回しても人影らしいものは見えない。
そして静かなこの裏道に笑い声が響く。
「Sorry, lady」
すらりとした長身の青年が電柱の陰から姿を現した。
少女は青年に見入っていた。すらりと伸びた手足に、碧い目。そして月明かりで輝く金髪。どこかそれが神秘的だった。
「私はさきほど日本に着いたばかりなのですが、ここまではどう行けばよろしいでしょうか?」
「どうって……」
住所を見せられた少女は、そこに書かれている場所がここからさほど離れていないことに気付く。
「それだったらそこの角を左に曲がって突き当たりの角までまっすぐ歩いていくと正面に赤い屋根の……って言っても夜だから分かんないか。とにかく、家があるから、その家の三軒右隣です」
少女は大きな屋敷を思い浮かべている。青年がその家に何の用があるのか分からないが、それなりの家の出ではないだろうか。
「ありがとうございます。ずいぶん探したのですが、中々着かず」
「まあ、そういうこともありますよ。それじゃ、私はこれで」
「待ってください!」
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