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 今も思い出すだけで腹が立ってくる。そして董子は青年の言葉を思い出した。 「今日からうちの学校って……転入してくんの!? あの、似非(えせ)紳士が!?」  道端で頭を抱えて蹲る姿は変人だ。数人が可笑しなものでも見るような目で通り過ぎていく。 「あれ、頭なんて抱えてどうしたの?」 「神父様!」  若い男性が二階建ての建物の前に立っている。洋風の造りで、2階の壁には丸いステンドグラスの窓があり、昭和初期にでも建っていそうなレトロな雰囲気の店だ。  董子に声をかけた青年はこの店のオーナーだ。神父というのも彼のニックネームのようなものだ。男性にしては華奢な体つき、目元を隠すように伸びている髪がその端整な顔立ちを隠してしまっている。 「まだ少し時間があるからコーヒーでも飲んでいく?」 「じゃあお言葉に甘えて!」  店内には至る所にアンティークが飾られている。ショーウインドウにもいくつかのアンティークドールがある。店内を通った奥はこじんまりとした飲食スペースがあり、三台ほどの丸テーブルと、四人程度が腰掛けられるカウンター席がある。カウンター席ではオーナーの神父様自らがコーヒーを入れている。本職はコーヒー店ではないのに、趣味が高じて常連客だけにオープンしている場所なのだ。  董子は学校帰りによくこの場所に立ち寄る。そして他の常連客とこの場所でコーヒーを片手に団欒(だんらん)する。  その時間が董子はとても大好きだった。 「どうぞ。ミルクたっぷりですよ」  コーヒーの中で渦を巻くようにミルクが泳いでいる。コーヒーと、その中にあるミルクの香りを楽しみながら口を付けた。口の中にコーヒー独特の苦みが広がり、そのあとにミルクの甘みがやってきた。  ここのコーヒーは相変わらずおいしい。  董子は顔を(ほころ)ばせた。 「にしてもあんなところで(うずくま)って、何かあったの?」 「聞いてよ、神父様!」  董子は神父の優しさに飛びつきたくなった。  いつもより早く家を出て正解だったと、カウンターから身を乗り出した。 「もう昨日は大変だったんだから!」 「そ、そう。じゃあ話を聞こうか」  董子の様子に神父はタジタジだった。  神父はコーヒーの隣に出来たてのブラウニーを添えて、困ったように笑った。  それを片手に董子は語り始める。やはり一番話したいのは、似非紳士のことだ。つらつらつらつら董子の口から零れるように出てくる。
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