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「ファーストキスを、ね。女の子にとっては大事なことだろうしね」
「そうそう! あんな感動も何もないキスがファースト! しかも初対面で……。好きな人でもないのに」
しまいには董子は泣きそうな声で言う。
「だったらセカンドキスは好きな人にしてもらったら?」
「そんな問題じゃないんです!」
「だろうね……」
董子はブラウニーを頬張って睨み付けるようにして神父を見る。その口元にはブラウニーのかすが付いている。
初めてのキスは印象に残る、と言うが、董子はあんな印象の残り方は嫌だった。不意打ちで持っていかれたファーストキス、相手はどこぞの貴族かという金髪碧眼の男。見た目だけなら二重丸どころか三重丸の男だが、キスのことで印象は最悪だ。
「しかもうちの学校に来るんですよ!? 同じクラスだけは絶対いや!!」
「短時間で彼は相当董子ちゃんに嫌われちゃったみたいだね。もしまた何かあったらいつでもおいで。話ぐらいなら聞けるから。もう学校に行きな」
「はい。それじゃまた放課後に来ますね!」
「うん、待ってるね」
董子は店を出た。
道を歩きながら火照った顔を冷やすように、手を当てる。
「……神父様、かっこよすぎ」
待ってると言った時の微笑みが董子にはまぶしく見えた。金髪碧眼の男が霞んで見えるほど、彼の笑みは董子には効果抜群だった。その笑みだけで今日一日乗り越えられる、董子は顔がにやけるのを止められない。
学校についた董子が教室に入ると、ほとんどの級友が揃っている。席に座って近くの生徒と話をしている。
「ねえ、董子。聞いた? うちのクラスに転入生が来る話」
席に着くと隣の少女が董子に声をかけた。
「転入生?」
「そう。こんな時期だけどね。聞いた話じゃとんでもなくカッコいいらしいよ」
「へえ?」
少女と話していると何人かの級友が話に入ってくる。
「それ俺も聞いた! なんでもイギリスからの留学生らしいぜ?」
「私も聞いた! 金髪碧眼のそりゃもうイケメンって!」
興奮したように言った少女の言葉に、董子は引っかかった。金髪碧眼でただ一人、思い当たる人物がいる。
董子の頬は引き攣る。
「このクラスに?」
「そう、このクラスに!」
「でも、なんでまた今なんだ?」
少年は首を傾げた。
つられるように何人か頭を悩ませている。
「まっ、それもすぐ分かるんじゃない? 転校生にはありきたりの質問タイムはあるだろうから、さ」
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