5/13
前へ
/23ページ
次へ
「ファーストキスを、ね。女の子にとっては大事なことだろうしね」 「そうそう! あんな感動も何もないキスがファースト! しかも初対面で……。好きな人でもないのに」  しまいには董子は泣きそうな声で言う。 「だったらセカンドキスは好きな人にしてもらったら?」 「そんな問題じゃないんです!」 「だろうね……」  董子はブラウニーを頬張って睨み付けるようにして神父を見る。その口元にはブラウニーのかすが付いている。  初めてのキスは印象に残る、と言うが、董子はあんな印象の残り方は嫌だった。不意打ちで持っていかれたファーストキス、相手はどこぞの貴族かという金髪碧眼の男。見た目だけなら二重丸どころか三重丸の男だが、キスのことで印象は最悪だ。 「しかもうちの学校に来るんですよ!? 同じクラスだけは絶対いや!!」 「短時間で彼は相当董子ちゃんに嫌われちゃったみたいだね。もしまた何かあったらいつでもおいで。話ぐらいなら聞けるから。もう学校に行きな」 「はい。それじゃまた放課後に来ますね!」 「うん、待ってるね」  董子は店を出た。  道を歩きながら火照った顔を冷やすように、手を当てる。 「……神父様、かっこよすぎ」  待ってると言った時の微笑みが董子にはまぶしく見えた。金髪碧眼の男が霞んで見えるほど、彼の笑みは董子には効果抜群だった。その笑みだけで今日一日乗り越えられる、董子は顔がにやけるのを止められない。  学校についた董子が教室に入ると、ほとんどの級友が揃っている。席に座って近くの生徒と話をしている。 「ねえ、董子。聞いた? うちのクラスに転入生が来る話」  席に着くと隣の少女が董子に声をかけた。 「転入生?」 「そう。こんな時期だけどね。聞いた話じゃとんでもなくカッコいいらしいよ」 「へえ?」  少女と話していると何人かの級友が話に入ってくる。 「それ俺も聞いた! なんでもイギリスからの留学生らしいぜ?」 「私も聞いた! 金髪碧眼のそりゃもうイケメンって!」  興奮したように言った少女の言葉に、董子は引っかかった。金髪碧眼でただ一人、思い当たる人物がいる。  董子の頬は引き攣る。 「このクラスに?」 「そう、このクラスに!」 「でも、なんでまた今なんだ?」  少年は首を傾げた。  つられるように何人か頭を悩ませている。 「まっ、それもすぐ分かるんじゃない? 転校生にはありきたりの質問タイムはあるだろうから、さ」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加