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 ホームルームの合図を知らせるようにチャイムが鳴り響く。級友たちが席に着くのを見計らったかのように担任が入ってくる。  いつもなら担任が入ってきてホームルームが始まるのだが、今日は違う。担任に続いて入ってきたのは金髪に碧い目の長身の男だった。  少女たちは色めき立つ。  男は顔に柔和(にゅうわ)な笑みを浮かべ、クラスを見回した。 「みんなも知っての通り、今日は転入生がいる。あー、彼はサミュエル・アルバート・クロムウェルだ。イギリスから来た。自己紹介できるか?」 「サミュエル・アルバート・クロムウェルと申します。気軽にサムと呼んでください」  サミュエルは流れる動作で頭を下げた。男がする仕種一つ一つが洗練されており、息を呑むほどの美しさだ。四十五度の角度で下げていた頭を戻し、白い歯を覗かせてほほ笑む。綺麗な顔に幼さのまじる笑みを浮かべた。  クラスの至る所で熱っぽいため息が漏れる。 「……あんなん顔がいいだけじゃん」  董子の前の席に座る少年が言う。  彼だけではない。ほとんどの男子生徒たちは、サミュエルに羨望(せんぼう)のまなざしを向けると同時に、その目には嫉妬の炎を燃やしている。クラスの中に好きな子でもいるのだろう。少年は舌打ちをした。 「それじゃ、このホームルームの時間使ってクロムウェルに質問でもするか。なんか聞きたいことあるやつ?」  担任の言葉に手を挙げるのは少女たちだけだった。それ以外はほとんどつまらなそうに肩肘を付いている。 少女たちは我先にと口を開く。 「イギリスのどこに住んでたの!?」 「彼女いる!?」 「兄弟は?」 「身長何センチ?」  次から次へと出てくる質問にサミュエルは笑顔で答えていく。 「実家はオックスフォードシャーですが、ロンドンにあるパブリックスクールに通っていました。彼女はいません。兄が一人、弟が二人に妹が一人います。身長は……最後に測ったときは、百八十八でした」  少女たちはサミュエルの答えを聞き、顔を見合わせ小鳥のように(さえず)っている。彼女たちは一様に喜色(きしょく)満面だ。  サミュエルの彼女がいないという発言に喜んでいるのだろう。  少女たちの囁き声だけがする教室の中で、サミュエルはつまらなそうに毛先を(いじ)る。弄りながらも少女たちを見て、面白そうに目を細める。 「じゃあじゃあ! なんで日本に来たの?」
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