-まんげつのよる-

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  山野行の帰路だった。   道を見失い、折悪しく降り出した雨に追い立てられるようにして、私は、その場所へ来てしまった。   時刻からすれば陽はまだある筈なのだが、一帯に立ち込めた厚い雨雲のおかげで、辺りは薄闇に覆われてしまってい。   加えて、木々の間から湧き上がる水煙とが相まって、為に、薄曇りというよりも夜の鳥羽口…と、いったほうがぴったりな様相だった。   迷ったとはいえ、山道を大きく外れたわけでは、ない。 山は下っていけば、いづれ麓の里に行き着く。だが、雨霧の山中を徘徊するなど、愚行以外のなにものでも、ない。   雨さえ止めば雲も晴れる。月か星が出てくれば、なんとかなる。 それまで雨を凌げる仮の軒さえ確保出来れば、いい……。   そう判断した矢先。この木立が目に入った。   一面が黒々とぬかるむなかに、其処だけが、丸くぼんやりと乾いた灰緑に浮き上がって見え。   私は、躊躇うことなく、その緑葉の軒へと駆け込んだのだ。  
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