一通のメール

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高原秀一が通う、私立 斑鳩院高校は、日本有数の資産家である斑鳩吉宗が、自身の理念である『自由と責任』の元に、東京都内某所に建てられた進学校である。 つい先日、この学校から生徒が何人か行方不明になる事件が起こった。 この事件に対して、創設者であり理事長でもある斑鳩吉宗は、記者団に対して、 「誠に遺憾であり、残念でならない」 とコメントを残した。 そんな事情な為、学校は学生側に集団下校。部活動時間の短縮を要求した。 これには当然生徒側は反発し、口々に「いい歳した高校生が、集団下校とかねーよ」「大会近いのに、時間短縮されたら堪らない」「寄り道が高校生の醍醐味だろうが」等の不満をあげた。 生徒会も「自由を謳っておきながら、生徒を縛るのは明らかに矛盾している」と、学校側との議論を強めた。 秀一としては別段どうでもよく、帰宅部である秀一には関係ない話であった。 彼の妹である子鹿が「走れなくてつまらない」とぼやいていたが、ただそれだけである。 学校に到着した秀一は、真っ直ぐに自分の教室へと向かおうとした時である。 「……で……なの……」 廊下の何処からか、かすかに女性の声が秀一の耳に入ってくる。 声のする方に向かうと、そこには一組の男女が立っていた。 (あれは……) 見覚えのある二人だった。 二人共、秀一のクラスメイトである。 男の方は山本と言い、そんなに親しい訳ではないが、仲が悪い訳でもない。 普通であるなら、何てことないと思いそのまま教室へと足を運ぶのだが、一緒にいる女生徒の存在が秀一の興味を引いた。
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