4人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前はそのお得意の運に命を救われたんだ。」
こいつは昔から何かと運と勘が強かった。
何かあれば勘でその危険を回避し、よくあるテストは時折少しも勉強せず、運で高得点を取るという奇跡を起こした。
「……褒めてくれてんのか?」
「…好きに思えばいい」
はぁ、と溜息をついて飲み物を持ってくるかと思い扉を開けた。
そのとき。
背筋を寒気が駆け下りる。
金嶺以外の視線を横から感じる。
凍りつく空気。
滲み出る脂汗。
顔は向けない。
だが、目線のみ、そちらに向いた。
そこには、髪が長く目は充血し、生きているとは思えない目でこちらを見つめる少女がいた。
よく見ると彼女の服には返り血、顔にも血がついている。
直後、ビシリ、と周囲に色がなくなり、灰色の世界になった。
なにが起こったのか理解できない、と思ったとき、少女の口が開いた。
≪…貴方は、敗者に手を差し伸べるというの…?≫
「…?」
≪勝者と敗者…1と0は明らかに違う…。敗者に手なんか差し伸べたって何にもなりはしない…。≫
「………お前は、なんなんだ。金嶺を殺そうとしたことは知ってる」
≪彼は限りない0を選んだ欲張りな男…。そんな奴に、貴方は手を差し伸べるというの? 貴方も敗者になるわ≫
「関係ない。」
≪何故? 何故自ら0を選ぶというの?≫
…この少女の過去に何があったかなんて私には関係ない。
私は何も知らないしあの広告に呑まれたわけでもない。
だが、このままでは金嶺を殺す気であろうだろうし、…金嶺は幼い頃からずっとそばにいた唯一の理解者でもあるのだ。
【敗者】も【勝者】も、関係ない。
「私はあいつのためなら敗者も勝者も選ばない。そんなものを気にしている暇があるなら目の前の幼馴染を救うことを優先する」
≪――――――――――愚か…。自ら敗者になるというのね≫
「違う、敗者になるんじゃない。勝者になるんでもない。理不尽なその運命とやらをぶち破るだけだ。」
そう言って少女を睨みつけると、少女の口角が歪んだ。
いやらしい瞳だ、とひそかに思うと、少女は薄っすらと姿を消しながら言った。
≪…サヨウナラ、敗者。貴方達の身の回りに起こる悲劇に嘆けばいい…!!≫
最初のコメントを投稿しよう!