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次に瞬きしたとき、周囲に色は戻って視線の先に少女は居なかった。
ふ、と周囲を見ても特に変化はなく…小さく安堵の息をついた。
「…茨穏?」
「なんでもない。」
反射的に言葉が出て、台所へ行く。
もう逃げられない、そのことは分かっている。だが、逃げ様とも思っていない。
己が選んだ道なのだ。
「(…勝者も敗者も関係ない。)」
例え金嶺が≪敗者≫であろうと、関係ない。
自分が≪勝者≫でも≪敗者≫であろうとも関係ない。
「(守りたいと思うから、守るだけだ)」
「…え」
私の言った一言に金嶺はポカン、とした表情をしている。
はあ、と溜息をついてから私はもう一度、
「こっちにいろ、お前の家まで戻る間に何が起こるか分かったこっちゃない」
「…で、でも絶対迷惑に」
「さっきガキに警告された」
「!?」
「敗者の手を貸すのならお前も同罪だ、みたいなこと言われた。」
「…ごめ、ん」
「謝るのはお前じゃない」
「え?」
鋭い目つきの瞳に金嶺が映る。
淹れたコーヒーを二杯テーブルにおいて、そのうち一杯に手をかけて口付けた。
「きっと、おまえみたいになって、死んでいった人はたくさんいる。少なくとも、もし先に手をつけたのが私だったら、私がそうなってたかもしれない。」
「…、」
「人に未来は分からない。だから明日、自分は死んでしまうかもしれないし生きているかもしれない。…死んでいった人たちは、その次の日死ぬ運命だった人だったのかもしれない。何日寿命が縮むのかなんて知らないけど…。」
「…俺も、分かんない」
「だろ? …これでいいじゃんか」
「? どういう意味だ?」
「明日死ぬと私たちはわかった…いや、もう分からせられたんだ。明らかにお前はあの場で殺される運命を回避して狙われる運命に、同時に私もお前に手を貸したから狙われる立場になる、ってな」
「…つ、つまり、もう未来は…」
恐る恐る訊く金嶺に、私はクス、と微笑んで言った。
「そう、逃げるってことだ。抗って抗って、生きるしかない。運命という逆流を流されないようにしながらな」
と。
それが唯一の答えだった。
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