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そして、それから何度か授業を受けた。
でも莉緒は「上手いね」なんて言わない。
気になった俺は授業の前に、とうとう自分から話しかけてしまった。
「お前さ、俺にいつもいつもしつこく話しかけて来るのに、一度も誉め言葉とか言わないよな」
「えっと、そう?」
「……知らないのかよ」
「うん、全く。ごめんね」
「何でそんなことで謝るんだよ」
「だって言って欲しかったのかなって」
そう言ってクスクス笑う莉緒。
「でも今まで一度も自分から話そうとしなかったってことは、知ってるよ。初めて声かけてくれたよね。ありがとう」
爽やかに笑みをこぼされた。
何でそんな風に笑うんだよ。本当、わかんないヤツ。
「やっぱ無理だわ。俺にはお前の気持ちとかわかんねーわ。何でそんなにヘラヘラと俺なんかに話しかけて来んだよ」
つい、質問してしまった。
すると莉緒はそんなことを訊くのかと言いたそうに俺を見つめてきた。
「……な、何だよ…」
「ん?そんなこと訊かれるなんて思ってなかったからさ、ビックリしちゃった」
いつも笑顔の莉緒だが、今は何だかその笑顔に曇りがかかったように見えた。
「私さ、他人と話すとか話しかけるとか苦手なんだよ。所謂人見知りってやつ?……いっつも小さくして影に隠れてたんだけど、声優になりたいって思った時に変わろうと思ったんだ」
「変わる?」
「そう。演技するときにみんなと溝とか壁とかあったらやりにくいでしょ。映像の中では仲いいのに現場はギクシャクってより、中も外も仲良し、みたいな?喧嘩ばっかしてる声優とか、みんな好きにはならないなあって思ったりもしたな」
そう言って莉緒は懐かしそうに上を見上げる。
「だから、自信を持てるようになりたい、そのためには他の声優さんやスタッフさんと仲良くなって、いろんな意見を出しあって、良い作品を作りたい。それが私の願いなんだよ」
………………。
最初は「そんなこと」と思った。
でもすぐに違うと思ったんだ。
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