雨に濡れて...

2/6
前へ
/11ページ
次へ
「……お兄ちゃんは?お兄ちゃんは、どこ?」 小さな女の子が俺の前で瞳に涙を浮かべて尋ねてきた。 「お兄ちゃんは、どこに行ったの?」 そんなこと俺が知るわけもない。 しかし、少女は俺に答えを求めてくる。 いつまでも、いつまでも………。 「優しいお兄ちゃんは……」 そして少女の声はどんどん小さくなっていく。 俺はとっさに少女の体を支えた。 その体は、濡れていた。 俺はその少女の体に触れて手についたものを見た。 ――それは、血だった。 少女の体は血で濡れていたのだ。 「お兄ちゃん……」 声がどんどん弱っていく。 だけど、俺はこの子のために何もしてやることが出来ない。 ただ………見守るのみ。 「おにい…ち……」 少女はゆっくりと目を閉じ、それから一度も目を開けることはなかった。 健やかに眠れ。見知らぬ子。 俺はその場から立ち去った。 立ち去ることしか出来なかった。 怖い。そう思った。 でもなぜ怖い。 わからない。それも怖い。 ただただ、怖い。 逃げるように走った。 逃げる自分も怖い。 なぜ?なぜ?なぜ? なぜ俺は怖がっている? 回答が上がらないまま、ひとつの扉の前に俺はいた。 そう、いつの間にか。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加