205人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
触るな。やめろ、助けてくれ。おい、寝てる場合じゃないだろ。なあ、おい、頼む、起きてくれよ!
「ここかいな、ここかいな、わしの首はここかいな」
腹辺りを撫でられた。寝袋の上だというのに、はっきりと冷たいのが判る。
それはやがて心臓の上を触れた。その時だけ、長く長く触られていた気がする。
鎖骨辺りを撫でた。首はもう間もなくだ。ひたすらに恐ろしくて、涙が出そうなのになにもでない。身動き一つ取れない。
そっと、冷たい手が首に触れた。
「ここかいな、ここかいな、わしの首はここかいな」
二つの手が遠慮なく俺の首を触り続ける。長く長く、まるで吟味するかのように。
「ここじゃいな、ここじゃいな。わしの首はここじゃいな」
首に痛みが走った。体が動かない。まるで、鉛にでもなったかのようだ。
首が上に持ち上げられようとしているのに、体はそこに吸い付いたかのように動きはしなかった。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
無理矢理首が引っ張られ、想像出来なかった程の痛みが走る。
やめろ、やめて、助けて。やめて、やめて、やめて、やめて、助けて、痛い、痛い、助けて!
声は出ない。身動きもとれない。
「ここかいな、ここじゃいな。これかいな、これかいな。
――わしの首は、これじゃいな」
何かが切れた。生涯感じたことのない激痛だった。
叫びたい。俺の全身から悲鳴が上がった。それでも、体は動くことがなかった。
何かが外れた。また何かが切れた。もう痛みは感じない。また切れた。また、切れた。今度は、連続で切れた。
まるで雑草を引き抜いた時に、根をまとめて引っ張るように、嫌な音を立てて千切れていく。
口に生温かい液体が溢れた。味は分からない。もう、なにも分からない。
「わしの首はこれじゃいな。わしの首はこれじゃいな。わしの首はこれじゃいな」
やっと目が開く。
血にまみれた地蔵が、俺の首を掴んでいた。頭はないのに、笑ってみえた。
大きく引きちぎるような音を最後に、俺の世界は閉じられた。もう何も、感じない。
最初のコメントを投稿しよう!