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「うう、気持ち悪いな」
「そうだなあ」
「それにしても、犯人は妙な奴だ。わざわざ山に登って、こんなところに置くなんて」
「確かに。俺だったら山の中に放って知らん顔してるぜ」
「ところで、さっきの話はもう終わりか?」
「おっと、そうだ。この地蔵様は、どうも意思を持ってるらしいぞ」
「ほう」
頭がないのに意思を持っているなんて、馬鹿げた話だ。
「気に入った奴の頭を持っていくんだとさ」
「目も鼻も耳もないのに、どうやってお気に入りを見つけるんだい」
「それは――」
友人は言葉に詰まった。どうもその辺りは考えなかったらしい。俺は思わず笑ってしまった。
「まったく、噂話にしても程度が低いよ。もっとまともな話を持ってきてほしいもんだな」
「いや、中々怖いと思ったんだけどな」
二人で地蔵を眺める。無機質で、黒ずんだ地蔵の方から、ひんやりと冷たい風が吹いてきた。
身震いしてしまった。寒気が全身に走ったせいだ。早く頂上へと向かおう。
「そろそろ行こう」
「なんか、雲行きが怪しくないか」
空を見上げれば、確かに分厚い黒雲が風に乗って緩慢な動きをしている。これは、一雨きそうだな。
考えている間に、額にぽつりと冷たい水滴が当たる。途端に滝のような大雨が降り始めた。
頭をを腕で覆っても、雨は全身を狙って降り注いでくる。友人は頂上へ駆け出した。
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