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 しかしその内、妙な音に気が付いた。  風が物体に直撃する音。雨が天から地上に落ちる音。それと、なにかを引きずるような音だ。  初めこそ風に紛れていたが、それはしっかりと聞こえ始めていた。  なにかが小屋に近付いている。重いものを引きづっているようだが、一体なんだろう。同じ登山者だろうか。  やがて小屋の前でその音が止んだ。入ろうとしているのか?  しかし、扉は開かない。俺はそれが気になって、身を起こして扉を眺める。  開く気配はない。むしろ、人の気配がしない。音からしたら、扉の前には誰かがいるはずだ。それなのに、誰かがいるような感じがしない。  おかしいな。空耳だったのだろうか。  首を傾げつつ、俺は再び横になった。  不思議と睡魔が訪れて、俺は眠たい瞼を閉じ続け、やがて雨音も気にならなくなってきた。その頃だ。  異音が耳を突いた。どうも軋むような音が鳴ったようで、誰かが扉を開けたらしかった。扉が閉まる音が、雨と風の音に混じる。  その際、雨で冷えた風が俺の肌を焦らすようにして撫でてきた。  なんだ、あいつが外にでも出たのか。何も俺が寝ようとしている時に出なくてもいいだろうに。  眠たい瞼を開けようとした。――開けようとしたはずだった。  動かない。体が動かない。微動だにしない。自分の体が、まるで凍りついたように固まって、一切の動作が出来ない。  どうしたんだ。どうして体が動かないんだ。あいつの悪戯? いいや、瞼まで開けられないなんておかしい。これは普通じゃない。  レム睡眠というやつだろうか。脳だけ起きていて、体が眠っているという状態のことだったか。初めてなったが、成る程、金縛りと言われているだけある。
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