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焦る気持ちを抑えて、勝手にそうだと納得してみた。だけど、頭の片隅で違うのではないかと囁く俺がいる。
小屋に打ち付けられる風雨の音だけが耳に届いた。不思議と、その空間だけが無音に感じてしまう。
あいつが尿意でももよおして、我慢できずに外に飛び出しただけだ。そうに決まっている。
俺はそう思い込もうと必死だった。
脳味噌に刻まれた、一つの可能性を否定し続けた。
『首狩り地蔵って知ってるか?』
馬鹿な。あるはずがない。あってはならない。そんな安っぽい噂話が、現実にあるわけがないんだ。
幽霊やそれに属するものに出会った人達は、金縛りになるのがお約束のようなものだ。
いや、これはレム睡眠というものに違いないんだ。金縛りなんてものは科学的に証明されているものなんだ!
でもこの奇妙な感覚はなんだ。どうして俺は焦って――いや、怯えているんだ。
初めてこんな感覚に陥ったからだろう。誰しも初めてのものに対しては不安を覚えて当然だ。
自分の中で、意見がせめぎあう。こうであってほしい願望。あいつが言ってきた噂に対する恐怖。その二つが渦のように俺の思考を回転させていた。
そんな状態がどれだけ続いたのだろう。動けないままだからかもしれないが、相当に長い時間、俺は身動きが出来ずにいた。
どうすればいいのか思案している時だ。隣から、いびき声が響いてきた。
血の気が引いた。あいつは外に出ていない。でも、扉は確かに開いたはずだ。音はしたし、冷たい風も肌で感じたのだから。
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